OSやOfficeのサポート切れは情シスにとっての一大イベント。セキュリティーの事を考えると確実にアップグレードを成し遂げる決意が必要。しかし経営側が難色…なぜ?「釣った魚にエサはやらない」という一つの可能性と、情シスとしての自分の価値を高めることが必要、というお話です。
「サポート切れ状態を放置してはいけない」との強い意思を持つ事の必要性
Windows XPの時に話題になったOSのサポート期限切れ問題。セキュリティー面を考えるとサポート期限の切れたOSは使い続けるべきではない、と言われてはいますが、必ずしも全ての人たちがOSをアップグレードできたわけではありませんでした。もちろん理由は様々かと思います。
理由はさておき、情シスとしてはOSのサポート切れ状態を放置しておくのは得策ではありません。そのツケは遅かれ早かれ自分に跳ね返ってくるからです。サポート期限が切たセキュリティーの甘い状態でPCの穴を突かれたらどうなってしまうでしょうか?影響は自分一人では済まない可能性があります。誰か1台のPCがダウンし、それが社内ネットワークでつながっている他のPCへと波及、業務が滞る…。もし客先へウィルス付きのメールが送られてしまったら・・・。自社内パソコンを踏み台にして他社のPCが攻撃されたら・・・。想像もしたくない状況です。
まずは情シス自身が事の重大性を強く認識する必要があると私は考えます。そのうえで上司・経営側を説得するわけですが、そもそも人はなぜアップグレードをしたがらないのでしょうか。
なぜ経営側はOSのアップグレードをしたがらないのか?
その理由とされている直接の理由を考えてみる
OSサポート切れに対する対策としては、
- PCの買い替え(リプレース)
- 既存PCのハードはそのままにOSのみアップグレード
以上の2通りが考えられます。では対策をしない・出来ないとされる理由とは何でしょうか?挙げてみましょう。
- アップグレードしたくても資金がない
- アップグレードする時間的余裕がない
- 現在のPCの環境を移し替える必要がありそれが手間
- 詳しい人がいないのでしたくても出来ない
- これまではアップグレードをしなくても大丈夫だった
- この件に関する知識・認識不足
大別すると
- アップグレードは必要ないと考えている
- アップグレードしたいが出来ない理由がある
- 知識不足でどちらとも言えず判断しかねている
いかがでしょうか。3はまだしも、1,2はちょっと厄介ですね。必要ない・出来ないと考える本当の理由を探る必要がありそうです。
一つの可能性「釣った魚に餌はやらない」
日本の文化においては、「形のないものにお金を費やす事への抵抗感」があるように感じますが皆様はどう思われますか?例えばライセンス料という目に見えないものに対してお金を払うという事に難色を示すことがあります。最近でこそOffice365やAdobeのCreative Cloudのようにソフトウェアのサブスクライブ課金という概念が広まってきましたが、一方で買い取り版Officeという選択肢がきちんと残されていることも事実です。目に見える自分の物という証しが欲しいわけですね。
そのようにして目に見える実態を入手するわけですが、その”すでに自分の物”になっているはずの物に対して、”セキュリティーのためにさらなる課金が必要”と言われると何故か損をした気分になってしまう事があるようです。いうなれば「釣った魚に餌はやらない」と言ったところのようです。「”高いお金を払って買ったPCが故障もしていないのにもう使えなくなるとは!”という気持ちになる」と、知り合いの社長さんは話しておられました。
PCはそんなに高い買い物なのか?
ではPCはそんなに高いものなのでしょうか?高いと感じるかどうかはその人の価値観次第といえるでしょう。
例えば時計。単に時間を知るだけならスマホでも100均の時計でも事足りるのに、時には”一生もの”という大義名分を付けてウン十万円~もするような高級腕時計が欲しくなったりするものです(私もその口でしたが…)。人間、価値を見いだせるものには大枚をはたけるものの、価値のないものの為には犠牲を払いたくはないと思うものです。
”PCをリプレースしたいが予算が…”という人にとってPCはそれほど価値ある存在とはなっていないのかもしれません。”そんなことはない”と言われると思いますが、事実上そういう事になるのではないでしょうか?
PCにはどれほどのポテンシャルが秘められているか?
PCの秘めるポテンシャルを考えてみましょう。
例えば事務員が1日2時間かけて行っていた仕事がPCの導入により1時間で終わるようになったとしましょう。毎日1時間の節約、22日/月の労働を時給1000円で換算すると…。
- 時給1,000円 × 22日 = 22,000円
- 22,000 × 3か月 = 66,000円
わずか3か月でPC一台分の値段となります。生産性の向上に大きくかかわってくる訳ですね。
もちろんこれはあくまで例えです。PCその物が浮いた分の時給1000円という現金を直接生み出してくれるわけではありません。新たな価値(そしてその先の利益)を作り出すには使い手の工夫がどうしても不可欠です。しかし、使い手の認識次第で十分に元が取れる道具とはなりえるはず、それがPCの持つポテンシャルです。
対応は慎重に。いきなり説得しようとしない方が得策
注意して頂きたいのは、うえで書いた理論をそのまま上司・経営側にぶつけることは得策ではない、という事です。これはあくまで「予算がなくてPCのリプレースは無理」と言われたとしても鵜呑みにしてしまわないように、情シスサイドとしてのスタンスを確認する意味で取り上げてみました。
経営側には経営側の理論があるはずです。たとえ正しいと確信していても正論を並べ立てるだけでは相手に理解してもらえるものではありません。コミュニケーションの3要素、「いつ」、「なにを」、「どのように」を心がけなければ説得は上手くいかないことでしょう。
目的を見すえて取り組もう
今回は、上司・経営側がOSのアップグレードやPCのリプレースを渋る数ある理由の中から一つの点だけをクローズアップして取り上げてみました。もちろん理由はこれだけではありません。上司・経営側にも自身の理論があり、当然雇われた側にはわからないご苦労もあるかと思います。
しかしOSやOfficeのサポート切れを放置することは大変危険です。会社全体の不利益につながりかねません。何としてもやり遂げたいものです。
「こと”PC”に関しては誰よりも一枚上手」である事を示す
もしかすると上司・経営側はこれまでPCによって新たな価値を生み出す事に不慣れだったのかもしれません。「釣った魚に餌をやらなかった」のではなく、「やり方を知らなかった」と考えるのです。これまでそう出来てこなかったのであれば、情シスである自分がその提案をすれば良いのです。生産性を向上させた結果空いたリソースを他に振り向ける事によってどのようなメリットが生じうるのか、プレゼンしていきましょう。そうすることによってPCは決して高い買い物ではないという事に気づいてもらいたいものです。
そう考えると今回のサポート切れ対策、情シスとしての自分の価値を上げることが一つの近道になるといえるかもしれません。「…君の言うことならばきっとそうなんだろうな」と思ってもらえるようにさえなれば話は通しやすくなるに違いありません。
もっともその上司・経営側の信頼を勝ち得るのが一番難しいのですが…。情シスとしての立場ゆえの、広く長期的な視野で物事が判断できる存在であることを地道にアピールする事は良いことです。短絡的ではない物の考え方は、いずれ”ひとり情シス”である自分への信頼へと変わっていくことでしょう。
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